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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(オ)531号 判決

上告人

永田節

右訴訟代理人

大庭登

破産者株式会社日本住宅

総合センター破産管財人

被上告人

上野久徳

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大庭登の上告理由について。

商法二六五条が株式会社と取締役個人との間の取引について取締役会の承認を受けることを必要とするものと定めた趣旨は、会社と取締役との間で利害の対立する取引について、取締役が会社の利益の犠牲において私利をはかることを防止し、会社の利益を保護することを目的とするものであるから、同条の右趣旨からすると、会社が取締役個人に対して貸し付けた金員の返還を求めた場合に、取締役が同条違反を理由としてみずからその貸付の無効を主張することは、許されないものと解するのが相当である。論旨はこれと異なる見解を前提として原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

上告代理人大庭登の上告理由

一、第一審判決は、事実並に理由の摘示において、株式会社日本住宅綜合センターが上告人に対し、昭和四十四年八月二日、弁済期を昭和四十四年十二月二十日とし、利息の定めなく金二、五〇〇、〇〇〇円を貸付けた旨認定しているが、これは商法二六五条の法律解釈を誤つて事実を認定しているものである。

二、即ち、商法第二六五条によれば、取締役が会社から金銭の貸付を受ける場合には、取締役会の承認を受けなければならないことになつており、取締役会の承認を得ない金銭の貸付は法律上無効であることは云うまでもない。本件において、上告人が、被上告人主張の消費貸借をした頃、株式会社日本住宅綜合センターの取締役であつたことは全く争のないところであるから、被上告人主張の金二、五〇〇、〇〇〇円の貸付は、取締役会の承認が為されていない限り、法律上その効力が無く、消費貸借契約は成立しない。

三、被上告人は、右金二、五〇〇、〇〇〇円の貸付について、これが取締役会の承認を得た旨の主張並に立証は何処にもなく、これが取締役会の承認を得ていないことは弁論の全趣旨により極めて明白なところである。

四、そうだとすれば、被上告人は、上告人に対し金二、五〇〇、〇〇〇円の損害賠償乃至は不当利得の請求をするのならいざ知らず、貸金の返還請求をなすことは法律上許されないところであるにも拘らず、第一審判決は、この点を全く看過し、若しくは商法第二六五条の解釈を誤つて、本件消費貸借が有効に成立したものとして事実を認定し、爾余の判断をしたことは、明らかに商法に違背しているものである。

五、而して、原判決も結局、第一審判決をそのまゝ踏襲して、控訴を棄却しているが、第一審判決と同様、これが商法に違背していることは云うまでもない。

六、殊に、原審は、昭和四十八年一月二十二日午前十時の弁論期日において、上告人から口頭を以つてこの点を指摘し控訴の理由を明らかにしたいと述べたにも拘らず、弁論の再開には応ずる、ということで弁論を終結してまつた。そこで上告人は、昭和四十八年二月一日弁論再開の申立をすると共に、添付準備書面を以つて第一審判決の解釈の誤り、並に事実誤認についてこれを指摘したにも拘らず、遂に弁論を再開することなく、昭和四十八年二月二十八日これが判決の言渡をしてしまつたのである。

七、これは、明らかに審理不尽であつて民事訴訟法に違背するものである。

八、以上の次第で、原判決並に第一審判決は、何れも明らかに法令に違背しているものであり、それが判決に影響を及ぼすことは云うまでもないことであるので、ここに民事訴訟法第三九四条に基いて上告した次第である。

よつて、原判決並第一審判決を取消し被上告人の請求を棄却せられたい。以上

(添付書類省略)

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